未来をつくる人を育てるために。
EdTechが実現する「明日の教育」

未来をつくる人を育てるために。
EdTechが実現する「明日の教育」

EdTech(エドテック)という言葉を聞いたことがあるだろうか。最先端の情報技術を用いた教育ツールや教育サービスによって教育環境を変革しようという動きが、全世界的に加速している。海外の一流大学の講義を原則無料でオンライン受講できる「MOOC(Massive Online Open Course;ムーク)」などは、その最たる例だ。我が国のEdTechの目指す先、そして、教育におけるワコムの取り組みを見ていこう。

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経済格差=教育格差にさせないために

近代的な学校教育が整備される以前では、自身の興味の赴くままに研究を重ね、新たな道を切り拓いた独学者たちが数多く存在した。儒家の始祖・孔子は特定の学校で教育を受けることなくその哲学体系を編んだ。「フェルマーの最終定理」に名を残す数論の父 フェルマー(Pierre de Fermat)は、法律家として働きながら趣味の数学研究に勤しんだ。ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)や森鴎外、ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway)も文学者としては独学であった。発明王 トーマス・エジソン(Thomas Alva Edison)も学校教育に馴染めず、教師役の母親から自宅で授業を受けたこともよく知られた話である。このように、かつて教育制度が十分に体系化されていなかった時代でも、知的好奇心があれば独学でも十分な学習成果を得ることができた。むしろ、世界を変えるような天才とは「独学の天才」であったとも言える。

他方、基礎教育課程の整備が進んだ現代では、経済力の差が学力の差に結びつく傾向が強まっている。学びたくとも学べない。あるいは、学ぶことへの関心そのものを持つこと自体が難しいケースも少なくない。そこで、こどもたちを取り巻く外的要因に左右されず、質の高い教育をくまなく行き渡らせるために注目されているのが、教育分野を変革する情報技術を指す「EdTech(エドテック)」であり、そのEdTechで教育分野を変革しようというムーブメントである「Edvation(エドベーション)」だ。EdTechは「教育(education)+テクノロジー(technology)」から、Edvationは「教育(education)+変革(innovation)」からの造語である。

可能性を秘める日本のEdTech & Edvation

少子高齢化がますます進む日本。教育の質を維持し、自ら進んで学ぶ人を増やすには、これまでのような座学中心かつ知識注入型の教育では限界がある。教育にテクノロジーを導入することは、単なる効率化ではなく、教育を新たなステージに押し上げ、社会を変革する意思と能力を備えた人を生み出すことにつながると期待が持たれている。経済産業省が管轄する「『未来の教室』とEdTech研究会」では、日本におけるEdTechそしてEdvationについて、3つの指針を掲げている。

第一には、学習者を中心にしたデジタル・ファーストの基盤を作る「新しい学習基盤づくり」。文部科学省による「GIGAスクール構想」では、小中学生に1人1台のデジタルデバイスを配布し、高速ネットワーク環境の整備を進めている。コロナ禍も相まって、デバイスの普及は一気に加速し、人口1億人規模の国では特筆すべき状況となった。これまで、世界に対して遅れを取っていた日本のEdTechが、今後、先進国になる可能性も秘めている。

第二に「学びの自立化・個別最適化」。本来、学びというものは、一人ひとりで認知特性や学習到達度が全く異なる。従来のように、教室での一斉授業ではなく、教育ビッグデータに基づいて個人に合ったアセスメントを行う。極端な話をすれば、デジタルデバイス1台あれば、インターネットを介して知的好奇心を満たすことが可能となる。

第三に「学びのSTEAM化」。STEAMとは、「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術(Arts)」「数学(Mathematics)」を統合する教育手法のこと。それぞれの異なる好奇心や探究心を核として、自分で学びを組み立て、主体的に学ぶことができる「アクティブラーナー(Active Learner;能動的学習者)」を育てることを目指す。

これらの指針を通じて育つであろうと想像されるのは、多彩な領域を軽やかに行き来しながら新しいアイデアを生み出すような、正にレオナルド・ダ・ヴィンチ的人物像である。AIをはじめとしたテクノロジーの進歩は「人間が人間にしかできないことだけをする時代の到来」をもたらすと言われる。EdTechが普及し、「人間にしかできないこととは何か?」という問いかけに対して、自ら学び続けることで答えを探す人が増えれば、この社会は一層豊かなものとなるはずだ。

「道具屋」の立場から、未来の教育を考える

EdTech分野のフロントランナーとして世界の先端動向にも明るいデジタルハリウッド大学院大学教授・学長補佐の佐藤昌宏氏は、専門家の見地からワコムの取り組みにエールを送る。

「私が行っているのは、日本全体のEdTechのレベルを押し上げること。これまでの公教育は、言ってしまえば、従来の社会システムが求める人材を育成することを目的にした仕組みでした。しかし、時代は変わりました。将来を担うこどもたちが、自分たちが望む未来をつくっていくためには、EdTechは欠かせないものです。教育のあり方に対する先入観や既成概念を一歩ずつでも変えていく。そのためには、GIGAスクール構想のような『官による全体レベルの引き上げ』と、ワコムが始めているような『民による新しい挑戦』の両輪が必要になると思います。デジタルツールのトップランナーがEdTechに理解と協力を示してくれることに感謝し、これから進むであろう数々のプロジェクトに大きな期待を抱いています」

佐藤氏が主催者の一人を務める「Edvation x Summit 2021(2021年11月18日から21日まで開催)」でも、教育分野におけるワコムの取り組みを紹介しながら、テクノロジーがもたらす教育の未来について、さらに踏み込んだ意見交換がなされる。急速に進展した日本のEdTech。トップランナーたちの想いが、産業革命以来、大きく変わることのなかった教育の姿を変えていく。

editor / writer_ Chikara Kawakami

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