「最高の教育で、未来をひらく。」
手書き×デジタルの先に見る新たな地平線。

「最高の教育で、未来をひらく。」
手書き×デジタルの先に見る新たな地平線。

90年以上にわたり、質の高い教育を求める生徒・学生たちへの教育サービスを続けている通信教育界の雄・Z会。経験豊かな添削指導者に支えられた「手書きの答案」を軸とした教育は、デジタル化の波にも乗りながら、さらなる次元へと進化しようとしている。Z会とワコム。「手書きに込められるもの」の価値を知る両社が目指す先とは。

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イノベーティブであり続けた90年

1931年(昭和6年)の創業から90年。時流を捉えた革新的な取り組みによって、通信教育の世界を牽引し続けてきたのが、「Z会」を擁する増進会ホールディングスだ。生徒が懸命に仕上げた答案用紙に書き込まれた、心のこもった「朱筆」の文字。通信添削を通じて「学ぶ楽しみ」に触れたという人も少なくないだろう。

創業者・藤井豊は、旧制中学での英語教員経験をもとに、当時普及が加速していた通信手段である「郵便」と、「添削」という双方向性を備えた指導方法を掛け合わせ、「通信教育」という画期的な教育サービスを世に送り出した。現在のZ会の前身である実力増進会の誕生である。以来、Z会が一貫して大切にしてきたのは「書いて、学ぶ」ということ。特に国語や数学では、書き取りや音読、練習問題の積み重ねが有効であり、「書くことで学力が定着する」というのは「人類の経験則」(Z会)といっても過言はないという。

Z会は、教育に対する想いを同じくする様々な企業がグループに加わり、総合教育グループへと発展を遂げてきた。原点である通信教育事業をはじめ、教室事業、法人事業、語学・留学事業、療育・就労支援事業、海外事業など、幅広い事業を展開している。現在、Z会グループは22社・約3000人の社員によって構成され、幼児から社会人に至るまでの幅広い層の顧客を対象とする多様なサービスを取り揃えた総合教育グループとなっている。

先頭を走り続けるための「不易」と「流行」

俳聖・松尾芭蕉の俳諧の特徴を表す「不易流行」。「不易」は時代を超越する不変のもの、「流行」はその時々で変化するものを指すとされる。Z会では、創業以来の原点である「百の聴講よりも一の実践」という指導方針を、「不易」として大切に守り続けていると同時に、教育を巡る環境の変化や技術革新に対しても、「流行」として積極的に対応を進めてきた。

ワコムとの協業も、この不易流行の考え方の延長にあると言えるだろう。「手書き学習」と多様な教育サービスを通じて蓄積した学習指導の知見を持つZ会。デジタルでの「手書き」分野で卓越したテクノロジーを持つワコム。「手書き」に託す想いを共にする両社の出逢いが、革新的な学習サービスの共同開発へとつながっている。最初の成果はZ会会員向け専用タブレットとスタイラスペンの開発。2021年春より、ワコムAES2.0対応の10.1インチタッチパネルを採用したタブレットとスタイラスペンと、デジタルインク技術「WILLTM」を用いた新しい学習コースである「中学生タブレットコース」をリリースした。

この専用タブレットの開発においても、長年の教育経験に裏付けられた厳しい要求があった。「デジタルツールを用いた学習では、レイテンシー(ペン先からインクが表示されるまでの時間的ずれ)など、紙とペンでの手書きとの違いが違和感を生む可能性があります。そのため、タブレット開発にあたっては、ペンとノートと同じような書き心地、手書き並みの反応速度を求めました」とは、Z会・情報システム部システム開発課の渡辺淳氏の言葉だ。教育のプロフェッショナルとして、パートナーであるワコムに求める技術水準にも妥協を許さないことがわかる。コロナ禍の影響により、教育のオンライン化は急速に進展している。タブレットを用いた通信教育は、さらなる成長が期待できると言えるだろう。

会員と添削指導者の「往復書簡」を、より価値のあるものに

Z会とワコムの共同開発が次に目指すのは「答案作成プロセスの可視化」である。Z会では「答案用紙は、会員からのラブレター」であると考えている。会員と添削指導者の関係性を言い表すものとして言い得て妙である。会員は、問題と向き合い、必要な情報を調べ、持てる知識と思考力を動員して、試行錯誤を繰り返しながら、一枚の答案を仕上げる。添削指導者は、その解答の正誤を判定するだけでなく、答案に込められた会員の考え方を解きほぐして、一人ひとりに応じた発展的な指導を答案用紙に乗せて返す。会員が歩んだ思考の過程を遡り、「どこに理解の誤りがあったか」「問題の意図を十分に理解できなかった原因は何だったか」といった点にまで細やかに気を配りながら、添削指導者自身の言葉で「朱筆」を入れていくのだ。この会員と添削指導者の間の「往復書簡」が本物の学力を育てる。

紙の答案では添削指導者が経験や独自のノウハウを駆使して行っていたこうした作業も、デジタルテクノロジーによる「答案作成プロセスの可視化」によって、新たな次元へ飛躍する。これによって、添削指導者による指導の価値を一層高めることにつながるだろう。デジタルペンとタブレットによる答案作成では、これまでアナログでは捕捉しきれなかった答案作成過程をデジタルデータ(ワコムでは、デジタルの手書きデータを「デジタルインク」と呼ぶ)として取得可能だ。これにより、会員が「どの問題から着手したか」「どのような工夫を試みたか」「どこで悩み、熟考したか」等の情報を、あたかも生徒の背後にいたかのように把握することが可能となる。これまで添削指導者一人ひとりの知識と経験に依存する部分が大きかった「過程の読み解き」が、すべての添削指導者の間で共有できるようになることで、朱筆の質を高め、会員一人ひとりに合ったよりきめ細かな指導の実現が期待される。

ここで思い起こされるのは、「医師」と「医療用AI」の関係性だ。レントゲン写真の読影は機械学習によって精度が高まったAIが担い、医師はその読影結果から治療方針を導くという相互補完関係。Z会とワコムが目指すのは、会員が答案を作成する試行錯誤の過程をテクノロジーが読み解き、読み解かれた情報に基づいて添削指導者が質の高い指導を行う、というコラボレーションだ。

デジタルが高める「行間を読み解く力」

言うまでもなく、「想いを読み解く」という添削指導者のクオリティこそが、Z会が通信添削教育の世界を牽引する原動力だ。Z会の添削指導者には、難関大学出身者や教員経験者など、実に1万人以上が名を連ねる。対価を求めるだけではなく、「子どもたちに教えることが好き」という理由で添削指導者という仕事に携わっている人は非常に多い。一方、指導の品質を維持するため、添削指導者もまた、添削されている。添削指導者としてトレーニングを積み、実力を高め、維持しなければ朱筆を握り続けることはできない。ワコムとの協業により、デジタルインクデータを読み解くことで、添削という人間味あふれる行為の価値をさらに高めたいという想いは、これからも変わらない。渡辺氏は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展がもたらすものに期待を寄せる。

「ひとつの回答に行き着くために辿った道のりは、添削指導者にとっても大変価値ある情報です。プロセスが可視化されることで、会員一人ひとりの解法の傾向を把握できることはもちろん、他の会員の解法とも照合してより大きな母集団としての傾向も見えてくるでしょう。デジタルテクノロジーがもたらしてくれる情報を基に、より進歩した添削指導が可能になることを期待しています」

平安の昔、想いびととの間で交わされた和歌のやりとり。巧みな表現のみならず、行間に込められた喜びや不安に想いを巡らせることで、人と人は確かなつながりを感じていた。一枚の答案用紙を介した時間も距離も超えた心のやりとりを、最先端テクノロジーがさらに実りあるものにしてくれるのであれば、とても素晴らしいことではないだろうか。

editor / writer_ Chikara Kawakami

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