コネクテッド・インク2022。

その鍵を握る「2つの問いかけ」について。

「宇宙」から「人間そのもの」へ

コネクテッド・インク。異なる分野の住人たちがそれぞれの創造性を持ち寄り、その衝突がもたらす「創造的混沌(Creative Chaos)」から生じる「驚き」や「気づき」、そして、その先に浮かび上がる「新しい文化のはじまり」を分かち合うこのイベントは、2022年で7回目の開催を迎える。その時々に浮かび上がる「問いかけ」を軸に、未来に向けた開かれたディスカッションを展開してきたが、今年、私たちに向けられるのは「人間は、その起源以来、本当に進化してきているのだろうか?」「ワコムの道具は、本当に人間の創造性に寄与していると言えるだろうか?」という対を成す2つの問いかけだ。「宇宙」をテーマに掲げた昨年が、巨視的に人間という存在を見つめ直そうとするものだったのに対し、今年はより焦点を引き寄せ、脳や心、皮膚感覚といった「人間そのもの」への探究を深めようとしている。

自らの足元を見つめ直し、未来へ踏み出すための「問いかけ」でありたい

「人間は、その起源以来、本当に進化してきているのだろうか?」

「ワコムの道具は、本当に人間の創造性に寄与していると言えるだろうか?」

ともすれば、人間の進化を疑問視し、科学技術の無力を糾弾するような悲観的なものにも映りかねないこの問いかけだが、もちろん、露悪的にそれらを否定するものではない。戦争や弾圧といった暴力、経済発展の代償としての環境破壊、過度な富の追求など、私たちは直感的に人間が重ねてきた愚かさにばかり目が向きがちで、その側面だけを捉えると人間はその誕生から20万年を経てもなお全く進化していないようにも感じられる。果たして、あなたの目にはどのように映るだろうか。

さらに、この問いかけには「人間性の根源」とも呼ぶべきものをデジタルテクノロジーが毀損する危険性について、わたしたちはより自覚的であるべきだという自戒や覚悟が込められている。単純に、デジタルテクノロジーの利便性だけを追求していては、この課題に気づくことはできない。その意味で、この本質的な投げかけは「一枚のコインの表と裏」のようなものだ。自らの歩みを見つめ直し、その意味や価値、時には業(ごう)といったものを認めながら、未来への新たな一歩を踏み出す。清濁合わせ飲むという構え方が、この問いかけから伺えるのではないだろうか。

「優しい結界」に守られて自由な想いが交差する

コネクテッド・インク 2022を主催するワコム代表取締役社長・井出信孝(いで・のぶたか)は、「問いかけ」というアプローチについて、一つの可能性を見出している。「答え」が持つ牽引力ではなく、「問い」が内包する求心力に光を見出す。ある種の飽和点を迎えているように映る現代社会において、このアプローチは確かな光を放つ。コネクテッド・インク2022で立てられた人間の長い歩みに対して向けられる2つの問いかけに託した想いについて、井出の言葉に耳を傾けよう。

「この一対の問いかけは、現代を生きる誰しもが思わず心を動かされてしまうような強烈な力を秘めていると思います。僕は、この力強い問いかけによって、コネクテッド・インク2022に『優しい結界』が張られるというイメージを持っています。本来、結界とは聖なる世界と俗なる世界を隔てる境目を指し、それは『ある力の影響が及ぶ範囲』を明示するものです。この問いかけによって、外の世界とは切り離されたコネクテッド・インク2022の特別な世界が立ち上がるのです。この『優しい結界』の内側では、いかなる意見も、いかなる価値観も認められる。本来、結界というものは非常に厳格であり、時には異質なものを拒絶していきますが、コネクテッド・インク2022で張られる結界は少し異なります。緩やかで優しくありながら、没入的な空間を提供するのです。中に入ることも外に出ることも全くの自由です。どのような解釈も許されます。『優しい結界』に守られながら、この根源的な問いかけに対する様々な人の想いが行き交うことができればと考えています」

現代社会の本質に向けられたとも言える問いかけを契機に、多くの人々が人間の未来に思いを巡らせる姿を期待せずにはいられない。ぜひ、コネクテッド・インク2022に加わり、問いかけから生まれる「優しい結界」を体感してもらいたい。

editor / text _ 川上主税(Chikara Kawakami)